私たちの周囲には様々な映像が溢れている。

飯田豊他編著『現代文化への社会学』北樹出版、2018年

 私たちの周囲には様々な映像が溢れている。駅を歩けば色とりどりの広告がそこかしこに貼られているし、雑誌を開けば報道写真や有名人のグラビア写真が掲載されている。映画館では様々な映画が上映され、テレビを付ければドラマ、バラエティ、スポーツ中継といった番組が放映されている。あるいは現代美術の領域において写真や映像を主たる表現媒体として用いるアーティストも少なくない。こうした映像文化の前提にあるのがカメラである。しかし、現代文化という観点からカメラについて論じることを目的とする本章において取り上げてみたいのは、こうした専門的な職業写真家やアーティストが用いているハイエンドのカメラではない。そうではなく、今日においてもっとも優勢であると思われるカメラ、すなわちスマートフォンである。
 Apple社がiPhoneの発売を開始したのは2007年のことであった。それに続き、各社から発売されたスマート・フォンは広く普及し、現在では数多くの人が所有してる。2017年に総務省が発表した「総務省情報通信白書」によると、国内におけるスマートフォンの保有率は、2011年に14.6%だったものが、2016年には56.8%となっている。なかでも20代のスマートフォン保有率は2016年時点で94.2%と、ほぼすべての人がスマートフォンを保有しているということになる。現在販売されているほぼすべてのスマートフォンにはカメラ機能が搭載されている。その意味で、スマートフォンとは通話・通信機能を備えたカメラであるといえるだろう。誰もがスマートフォンを携帯している現代とは、誰もが常にカメラを手にしながら生活を送っている時代なのである。
 MMD研究所が2016年にスマートフォンの利用者を対象に行った調査によると、「写真を撮影する際にもっとも使用するカメラはスマートフォンである」と答えた人が84.9%、とくに10代、20代では90%を超える。スマートフォンに保存されている写真の枚数は、平均すると1351枚。もっとも多かったのは10代女性で、平均3072枚であった。また、撮影対象としては、多い順に「友達・家族・恋人」「風景/海、山など自然」「料理」「風景/建物、街並み」「文書や書類」「ペットや動物」「モノ・雑貨・花など」「自撮り」などが挙げられている。撮影頻度としては、ほぼ毎日と回答したのが15%、2,3日に一度と回答したのが25.1%であった(出典:MMD研究所)。この調査は、ほとんどの人にとって写真をとる機器とは一眼レフやコンパクトカメラではなくスマートフォンなのであり、実際にスマートフォンを用いて極めて多くの写真を撮影していることを教えてくれる。さらに、そうした写真は特別な機会だけでなく、身近で些細な人や物を写したものが多いことがわかる。